坂本眞一さんの『イノサン』を、続編の『イノサン Rouge』まで読みました。
処刑人という重い題材を扱っているので、読む前から少し身構える作品ではあります。ただ、実際に読み進めていくと、残酷さだけではなく、絵の美しさ、時代の空気、キャラクターの狂気や弱さが強烈に残る漫画でした。
この記事では、具体的な展開には触れずに、ネタバレなしで『イノサン』の印象をまとめます。

『イノサン』はどんな作品?
『イノサン』は、18世紀のフランスを舞台に、死刑執行人の一族であるサンソン家を描く歴史漫画です。
中心になるのは、実在した死刑執行人シャルル=アンリ・サンソン。そこに、続編『イノサン Rouge』でより強く前面に出てくるマリー=ジョセフの存在も重なり、フランス革命前後の空気がかなり濃く描かれます。
歴史ものではありますが、単に出来事を追う漫画というより、処刑人として生きること、家に縛られること、時代に飲み込まれることを、美しい絵で真正面から描く作品という印象でした。
美しさと残酷さが同じ画面にある
まず圧倒されるのは、坂本眞一さんの画力です。
人物の表情、衣装、髪、肌、背景の質感まで、とにかく絵が美しい。ページをめくるたびに、漫画というより一枚絵を見ているような迫力があります。
ただ、その美しさの中にあるのは、決してきれいなものばかりではありません。処刑、権力、差別、暴力、欲望。かなり重たい要素が、逃げ場なく描かれます。
だからこそ、『イノサン』は「美しい漫画」なのに、ただ眺めて気持ちいい作品ではありません。美しさと残酷さのギャップが強くて、読んでいてずっと緊張感がありました。
処刑人という題材の重さ
処刑人という題材は、かなり特殊です。
人の命を奪う役割でありながら、社会の制度の中では必要とされる。けれど、人々からは忌避される。その矛盾した立場が、作品全体に重くのしかかっています。
主人公たちは、ただ「残酷な役目をこなす人」として描かれるわけではありません。生まれ、家、役目、時代の価値観に縛られながら、それでも自分の生き方を探していく人物として描かれます。
この題材だからこそ、読み味はかなり重めです。気軽に読むというより、少し体力を使いながら読むタイプの漫画だと思います。
キャラクターの狂気と時代の熱
『イノサン』で印象に残ったのは、キャラクターの狂気です。
みんなが分かりやすく善人、悪人に分かれているわけではなく、それぞれに欲望や恐れや信念があります。美しく描かれる人物ほど、内側に危うさを抱えている感じがあって、そこがかなり魅力的でした。
フランス革命前後の時代背景も、ただの舞台装置ではありません。身分、権力、貧富、怒りが積み重なって、時代そのものが熱を持って動いていくような感覚があります。
続編まで読むと、最初に感じた「処刑人の物語」という印象から、もっと大きな時代のうねりへ広がっていくのも面白いところでした。
こんな人におすすめ
『イノサン』は、万人向けの軽い漫画ではありません。残酷な描写もあるので、そこは読む前に少し注意が必要です。
- 圧倒的に美しい絵の漫画が読みたい人
- 重い題材の作品が好きな人
- フランス革命前後の空気に惹かれる人
- きれいごとだけではない人間ドラマが読みたい人
- 美しさと残酷さのギャップが刺さる人
このあたりに引っかかるなら、かなり刺さる作品だと思います。
まとめ
『イノサン』は、処刑人という題材の重さと、坂本眞一さんの圧倒的な画力が合わさった、かなり強い漫画でした。
読後に残るのは、単純な爽快感ではありません。美しい絵を見た満足感と、残酷な時代を覗いてしまったような重さが、同時に残ります。
軽くおすすめできる作品ではないけれど、刺さる人には深く刺さる作品。絵の美しさ、処刑人という題材、フランス革命前後の空気に惹かれるなら、ネタバレなしで一度読んでみてほしい漫画です。
